製造業と聞くと「工場でモノを作るのが仕事」というイメージを持たれがちです。実際に現場で手を動かす職種は確かに多いのですが、メーカーには企画・研究・開発・設計・生産技術・品質保証・調達・営業など、製造設備や製品に直接触れない職種も数多くあります。そして、直接触れない職種であれば、製造業でもリモートワークは十分に可能です。
この記事は、製造業で働きながらリモートワークを実現したい・続けたい設計・企画・営業職の30代を主な読者として書いています。設計職として一部リモートワークを取り入れている私の経験をもとに、職種別の可否、社内で導入を進めるための具体的な手順、そして2026年現在の「出社回帰」の流れの中で続けるコツまでを整理しました。
2026年のいま、製造業のリモートワークはどこにいるのか

2020年4月の1度目の緊急事態宣言を契機に、多くの会社が一気にリモートワークへ舵を切りました。当時は「とにかく出社を減らす」が最優先で、製造業でも本社・支社・設計部門を中心に在宅勤務が広がった時期です。
そこから約5年、状況は次の3段階を経て今に至っています。
- 2020〜2021年|緊急導入期:感染対策のため、可能な職種から一斉に在宅化
- 2022〜2023年|定着期:ツールや就業規則が整い、ハイブリッド勤務が当たり前に
- 2024〜2026年|出社回帰の動き:大手を中心に「原則出社」へ戻す会社が増加。一方で、リモートを継続・拡大する会社との二極化が進む
数値で見る「出社回帰」の実態
「出社回帰」と言われるものの、実施率そのものが崩れているわけではありません。パーソル総合研究所「第十回・テレワークに関する調査」(2025年)によると、正社員のテレワーク実施率は以下のように推移しています。
- 2023年7月:22.2%(全体)/35.4%(従業員1万人以上の大手)
- 2024年7月:22.6%(全体)/38.2%(大手)
- 2025年7月:22.5%(全体)/34.6%(大手)
全体の実施率はほぼ横ばいで、大手だけが2024年→2025年で −3.6pt と明確に下げています。つまり「出社回帰」の本質は、実施率そのものの崩壊ではなく、大手企業の方針転換と、テレワーク継続層における頻度の縮小にあります。
実際、テレワーカーのうち「週1日以下」の割合は 43.6% → 49.4% に拡大し、35.8% が「2024年から頻度が減った」と回答しています。一方で、テレワークの継続希望は 82.2% と調査開始以来の最高値を記録しており、会社の方針と従業員のニーズには明確なギャップが広がっているのが2025年の姿です。

クロスチェックとして、国土交通省「テレワーク人口実態調査」(令和7年度)では直近1年の実施率が 16.8%(+1.2pt)と、コロナ禍後の減少傾向が止まり増加に転じ、カオナビ HRテクノロジー総研の調査(2025年3月)もリモートワーク実施率 17.0% で前年同月と同水準の下げ止まりを示しています。大和総研のレポート(2025年7月)では、雇用型テレワーカー比率は2024年度で 24.6%、ハイブリッド型が定着段階に入ったとされています。「テレワークは消える」ではなく「ハイブリッドのまま縮小と定着が並走している」 と読むのが妥当そうです。
海外でも「ルールと実態のズレ」が起きている

世界に目を向けると、ウイリス・タワーズワトソン(WTW)の2024年調査では、世界企業の3分の2超が週1日以上の出社を義務化し、最頻値は週3日、リモートワークを完全禁止する組織は5%未満にとどまっています。米国のFlex Indexによると、2024年→2025年で必要出社日が +12% 増えた一方、実出社率は +1〜3% にとどまり、ルールが厳しくなっても実態がついていかない構図が表面化しています。
象徴的なのが、2025年1月の米大統領令で連邦職員の全面出社復帰が指示された件です。日本でも今後、似た揺り戻しが起きる可能性はゼロではありません。
製造業でも、リモートワーク制度を整えたものの実質的に形骸化している会社、逆に「制度として残し、対象職種は使い続ける」と決めた会社に分かれてきました。いまリモートワークについて考えるべきは「導入するかどうか」ではなく「自分の職種で、どう続けるか・どう手に入れるか」だと私は感じています。
リモートワークが難しい職種/可能な職種

製造業の中でも、職種によってリモートワークの可否ははっきり分かれます。
- 研究施設や試験設備が必要な研究や開発
- 工場内で実際にモノを作る加工や組立
- 製造された製品を扱う品質管理や倉庫管理
- 工場設備の保守・管理
これらの職種は、製造設備や製品に直接触れることが業務の中心にあるため、自宅から動かすのは現状ほぼ不可能です。
一方で、設計・生産技術(一部)・調達・営業・企画・経理・人事・情報システムなどは、PC上で完結する仕事が大半を占めます。工場とのやりとりもチャットやWeb会議でカバーでき、必要なときだけ現場に行く運用で十分に成立します。
ただし、リモートワークができる職種でも、対面でのコミュニケーションや勤務地での仕事にこだわる会社は今でも少なくありません。私の勤務先も、対面コミュニケーションを大切にする社風があり、可能な人でもほとんどが毎日出社しています。
私自身は設計と製図が主な業務で、自宅でできる作業は自宅、出社しないと難しい日だけ出社する、という運用です。仕事量が多く残業や休日出勤が続いていた時期に、コロナをきっかけとして『現状』『リモートワークのメリット』『必要な環境』を整理して上司へ提案し、リモートワークができる環境を手に入れました。
実際に始めてみると、次のような変化がありました。
- 工場や営業との打ち合わせ・同僚からの問い合わせが減った
- 自分が出席しなくても回る会議には出なくなり、設計時間が増えた
- 「分からないからすぐ聞く」習慣の人が「まず自分で調べる」に変わってきた
もちろん、実物を確認すること・現場の空気を感じることは設計の質に直結するので、完全リモートではなく、出社日を定期的に設けるハイブリッド型が現実解だと感じています。
グラント現場(勤務場所)に行かないとできないこと以外は、場所にとらわれずに仕事をした方が効率が良いです。
リモートワークをしたいなら、まず自分から動く
「働き方をリモートワークに変えたいのに、毎日出社している」という場合は、自分から発信して行動する以外に道はありません。会社の制度が自然に変わるのを待っていても、状況はなかなか動かないのが正直なところです。
少しずつでも情報を集めて資料を整え、上司に提案するところから始めましょう。
リモートワークができる職種に就いているのに、できていない場合

「設計や企画のようにPCで完結する仕事なのに、自分の会社では認められていない」というケースは、導入までのハードルが高くなりがちです。
2020年以降、多くの会社がリモートワークを導入した一方で、いまだに制度がない会社は経営層がリモートワークに消極的であるケースが多いと感じます。経営層を動かすには、感覚論ではなく具体的な提案を持ち込むのが近道です。
リモートワーク導入を検討してもらうために用意したい資料は次の3点です。
- 必要なもの:PC、Web会議ツール、チャットツール、VPN、セキュアな保管環境などの具体名
- 導入しないリスク:感染症・災害時に業務が止まる、優秀人材の採用・定着で他社に負ける、長時間残業の固定化
- 導入のメリット:通勤時間の削減、集中時間の確保、家庭との両立、採用力の向上
普段から企画や提案資料を作っている職種であれば、経営層の重い腰を動かせる可能性は十分にあります。
具体的に必要なものはこちらをご覧ください。

リモートワークができない職種に就いている場合

今の職種ではどうしてもリモートワークが成立しないなら、選択肢はシンプルです。
職種を変える。
社内で異動できれば一番ラクですし、異動が難しければ転職という選択肢になります。どちらも「言うは易く行うは難し」ですが、「出社・通勤を減らしたい」「リモートワークができる職種に就きたい」という気持ちが強いなら、行動しない限り状況は変わりません。
注意したいのは、就きたい職種のスキルがない状態でいきなり飛び込むと、一時的に収入が下がるリスクがあることです。リスクを抑えながら動くなら、次の3つを並行で進めるのが現実的です。
- 就きたい職種に関するスキルを身につける(書籍・社内研修・オンライン講座)
- 求人サイトに登録して情報収集 → 良い案件があれば応募
- 製造業に強い転職エージェントに登録(収入が下がる条件なら無理に動かない)
社内異動や同業界内の職種変更であれば、これまでの経験を活かせるため、一時的に収入が下がっても比較的早く戻りやすい傾向があります。仮に収入面で大きく伸びなくても、複数の職種を経験した人材として、その後のキャリアでは有利に働きます。
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メリットの多いリモートワークを、なぜ導入しないのか

ここまで読んで「うちの会社はなぜ取り入れないのか」と感じている方も多いと思います。導入が進まない会社には、概ね次の3つの理由が見えます。
社内の仕組みを整える必要があるから
リモートワークを取り入れるには、経営層が「導入する価値がある」と判断したうえで、ツール選定・就業規則の改定・セキュリティ対策などを整える必要があります。ここに時間がかかり、検討途中で止まってしまう会社や、そもそも検討に踏み出していない会社が珍しくありません。
仕組みは最初から完璧を目指すと前に進みません。まず小さく始めて、運用しながら問題点を都度改善していくほうが、結果的に早く整います。
リモートワークは「どこでも仕事ができてしまう」ぶん、働きすぎてしまう人が一定数います。セルフマネジメント能力、部下がいる立場であれば部下の業務計画を立てて管理する能力が、出社時より一段重要になります。
反対派の存在
リモートワーク導入の議論では、反対意見が出るのが普通です。大きく2つに分かれます。
- 対面コミュニケーションを重視する層:チャット中心になると意思疎通が難しい、信頼関係を作りにくいといった懸念
- リモートワークができない職種の層:「自分たちは出社しているのに不公平」という感情面の反発
社内のやりとりは、現在ではチャットツールで多くがカバーできます。発言の履歴が残るぶん、後から経緯をたどりやすく、議論の精度も上がります。一方で、口頭の雑談から生まれるアイデアや、新人の細かな様子をくみ取る場面など、対面のほうが向いている部分も確かにあります。
反対意見はゼロにできません。反対派の懸念を1つずつ書き出し、それぞれに具体策(出社日の設定、定例の1on1、現場手当の見直し等)を返すことが、合意形成への近道です。押し切ってしまうと、後々の関係に亀裂が残ります。
経営層がITに馴染んでいないから

経営層がIT分野に弱く、「オンラインで十分にコミュニケーションが取れること」「業務管理の方法」「リモートワーク全般」のイメージが持てない、というケースもあります。
これらは調べれば分かることですが、「知らない」「分からない」「調べる時間もない」が重なると、現状維持が一番ラクな選択肢になってしまいます。「昔からこうやってきたから」という理由で新しい提案が通りにくい会社では、経営層に限らず直属の上司がこのタイプでも、前に進みづらくなります。
私自身、前職ではこの種の壁に長く悩み、約10年モヤモヤを抱えながら働いていました。最終的に転職を決め、結果として収入が前職の約1.5倍に増え、自宅で仕事ができる環境も手に入れました。会社を変えることがすべての解決策ではありませんが、今いる場所で変えられないなら、場所を変える選択肢は常に持っておいて損はないと感じています。
グラント前に進めずモヤモヤした毎日を過ごしているなら、自分が求める環境を探して飛び込んでみると、見える景色が変わります。
今日からできる小さな一歩

ここまで読んで「動いてみたい」と感じたら、今日のうちに次のどれか1つだけでも進めておくと、来週以降の景色が変わります。
- A:上司への提案メモを書き始める(30分)
- 「自分の業務のうち、リモートで完結する作業の割合」をざっくり書き出す
- 必要なツールを洗い出す
- B:求人サイトに登録する(15分)
- 製造業の在宅勤務可能求人がどれくらいあるかを眺めるだけでも十分
- C:関連記事を読んで準備物を確認する(10分)
- 下の「リモートワークで必要なもの」を眺めて、足りない機材をメモする
提案にしても転職にしても、最初の1歩のハードルが一番高いものです。逆に言えば、1歩踏み出したあとは、流れに乗りやすくなります。
まとめ|リモートワークのメリット・デメリットを踏まえて
最後に、リモートワークのメリットとデメリットを整理しておきます。導入の議論をするときの「材料」として使ってください。
- メリット
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- 通勤時間がゼロになり、その分を仕事や生活に充てられる
- 自分のペースで集中時間を確保しやすい
- 気軽に話しかけられない分、無駄な中断が減る
- 「すぐ聞く」習慣の人が「まず自分で調べる」に変わり、組織全体の自走力が上がる
- 災害や感染症で出社できない状況でも、業務を継続しやすい
- デメリット
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- 時間を忘れて働きすぎてしまうリスク
- 部下や新人への指導が、対面に比べてやりづらい
- 自分以外の進捗が把握しづらい(出社時の「肌感覚」が効かない)
- 雑談から生まれるアイデアの機会が減る
メリットとデメリットを並べてみても、製造業の中で「PCで完結する職種」であれば、仕組みさえ整えればメリットがデメリットを上回るケースが多いというのが私の実感です。
出社回帰の流れがあるからといって、リモートワークが消えるわけではありません。職種・会社・働き方の組み合わせの選択肢が、以前より明確になってきた、というのが2026年の現在地だと思います。自分にとって良い組み合わせを、ぜひ自分の手で選び取ってみてください。
グラントリモートワークを経験すると、今まで無駄なところに時間と労力をかけてきたことに気づけます。気づいた時点で、もう半分は前に進んでいます。

